東京大学総合研究博物館所蔵の新生代化石貝類タイプ標本図説14.チマキボラ属

摘要

日本産奇貝の一つとしてThatcheria mirabilis Angas, 1877チマキボラが知られてき た（黒田·波部，1954)。本種は"Fusinae" [ = Fusininaeナガニシ亜科]の新属新種と して記載され，その属名は日本産の1標本，すなわちホロタイプを大英帝国に持ち帰った サツチヤー（Charles Robert Thatcher, 1831-1878)に由来する（Angas, 1877)。サツチヤー 氏は当時のョーnッパの自然科学者の間では貝類収集家として知られていたが (Anonymous, 1878, 1879など），ニュージーランドやオーストラリアでは芸能人（歌手兼 作詞·作曲家）として著名であった人物である（たとえばJohn et al.，eds, 2008)。本種が含まれるThatcheria Angas, 1877チマキボラ属の化石記録は後期中新世にまで 遡り，日本のほカヽインドネシア，フィジー，ニュージーランド，そして南米エクアドル など，今日よりも広い地域から知られている（Beets, 1943; Chang, 1963; Olsson, 1964; Beu & Raine, 2009)。しかしながら化石記録が少ないこともあり，その分布の時代的変 遷ゃ進化については十分には明らかとなっていない。また，本属の分類学的位置について はCharig (1963)やTucker (2004)が総括しているとおり，これまでに多くの議論がな されてきたが，最近のBouchet etal. (2011)によるConoideaィモガィ超科の分類では Raphitomidaeコゥシメコトッブ科に含められている。