土壌学より見た農業と環境

摘要

植物がその種子を他に落すだけで再生しうるのは、土壌が植物の生育に必要な養分を供給し、通気と保水のバランスをとる能力を備えているためであり、土壌生産力の持続性こそが農業の持続性を保障する鍵となる。 同時に、土壌は生物の遺体や排泄物を分解して元素の生物地球化学的循環を司っており、今日の環境問題の基本的な部分と深く関わっている。 このように、土壌は農業と環境の問題を考える上で根源的な重要性を担っているといえる。 本稿では、これらの土壌の基本的な機能について考えた上で、自然生態系を支えている自然土壌と、人間が手を加える農耕地の土壌との違いを明らかにし、農業の中での土壌管理の重要性を指摘する。そして、農耕の歴史の中で、人間がどのように土地生産力を収奪してきたか、あるいは農業の持続性をどのようにして確保してきたかを検証する。 現在の地球環境問題の一部としての農業と環境の関りについては、発展途上国と先進国のそれぞれについて社会的、経済的、技術的背景のもとに農業の持続性を破綻せしめた要因について考える。 その上で持続的農業へ至る道を考察するが、結論として、人間生存の基盤としての土壌の機能が大気や水資源とともに保全されることが必須であること、それを可能にするためには広い国民的合意が前提となるべきことを述べる。