新たな展開を見せるTYLCV媒介阻止機構--媒介、非媒介虫の比較から見えてきた媒介を阻止する障壁の存在--

摘要

トマト黄化葉巻病は，Tomato yellow leaf curl virus（TYLCV）による虫媒性難防除ウイルス病である。1996年に九州、東海地域で初めて発生が確認され（K肝Oetal．，1998），同ウイルスを唯一媒介することができるタバココナジラミBemisia tabaci (GENNADIUS) の分布拡大に伴い，現在までに東北地域南部まで本病の発生が広がっている。タバココナジラミは広範囲の植物種を寄主とし，発生地域では同じコナジラミ重科に属するオンシソコナジラミBemisia tabaci (GENNADIUS)）も同じ感染トマト上で繁殖することができるが，オンシソコナジラミはmCVを媒介しないことが知られている。この2種コナジラミは多くの地域で寄主植物を同じくするが，「なぜ，オンシソコナジラミはTYLCVの媒介虫とならないのか」という基本的な問題は不明なままであった。筆者らは，媒介、非媒介性を決める要因を明らかにしようと考え，この2種コナジラミ間でmCV媒介能力が異なる原因について研究を行った。その結果，mCVが媒介されるためには，昆虫体内組織への侵入が重要であること，オンシソコナジラミでは中腸上皮細胞膜によりmCVの組織への侵入が阻止されることが現在までに明らかとなった（OHNISHIetal．，2009）。すなわち，非媒介虫オンシツコナジラミにはmCVの媒介を阻止する「障壁」が存在し，それが媒介、非媒介性を決定していることが示唆された。本稿では，これまでの既往の報告も含めてmCVの媒介機構について紹介するとともに，他の動物、植物ウイルスの研究により解き明かされつつある媒介を阻止する「障壁」について，概説する。