寒冷地の針葉樹林の生い立ち:氷期と間氷期の繰り返しの中で分布域を確保

摘要

第四紀における寒冷化の中で，北半球では，モミ属，トウヒ属，カラマッ属，マツ属などの ごく少数の種が，氷期と間氷期の繰り返しにともなう分布域の変遷を経て，今日，高緯度'高 標高域に広がる亜寒帯林あるいは亜高山帯針葉樹林を形成していった。日本の本州の中部山岳地域ではおよそ標高1,500 m,北海道では500 mを越えるとマツ科の常緑 針葉樹*を主体とした森林帯，すなわち亜高山帯 針葉樹林がみられるようになる（図1)。この森林 の主要構成樹種は，本州ではモミ属のォオシラビ ソ（ァォモリトドマツ），シラピソ，ッガ属のコ メッガであり，北海道では，モミ属のトドマツ， トゥヒ属のェゾマツとァカェゾマツである（図2)。 このような針葉樹林は，ユーラシアから北ァメリ 力にわたる北極を取り巻く地域（周北域）におい て，さまざまな幅の連続的な植生帯としてみられ るほ力，それより低緯度の山岳域にもみられ（図 3)，一般的に亜寒帯林とよばれる。このうち周 北域の森林を特に北方林，山岳域にあるものを亜 高山帯林とよぶ。ユーラシア大陸の亜寒帯林は，主として常緑針葉樹林（暗いタイガ）とカラマツ 属からなる落葉針葉樹林（明るいタイガ）力ゆら れる。亜高山帯または亜寒帯は，東アジア.北米などの世界的な植生带区分からみて，寒温帯（cold temperate zone)とよぱ'れることもある。