旧世界ザルと類人猿はいつ分岐したのか——漸新世の化石が示す初期進ィ匕

摘要

最近の分子生物学研究では，現生霊 長類の適応放散は約7，100万?6,300 万年前に始まったとされている（図1"。 現生霊長類は曲鼻猿類と直鼻猿類に分 かれて進化し，後者はメガネザル類と 我々ヒ卜が含まれる「サルらしいサル」 である真猿類に分かれて進化した。ヒ トを除く真猿類は新大陸（北米大陸と 南米大陸）に生息する広鼻猿類と，旧 大陸(ユーラシア大陸とアフリカ大陸）に生息する狭鼻猿類に分類され，後者 はさらに二ホンザルゃヒヒなどを含む 旧世界ザル類（ォナガザル上科Cerco-pithecoidea)と，我々ヒトゃ類人猿を 含むホミノイド類（ヒト上科Homino-idea)に分かれて進化してきた（図1)。 一般的には「サル」というと中南米の 広鼻猿類と旧世界ザル類をまとめたも のを指す力；，系統的にはホミノイド類 に最も近いのは旧世界ザル類であり， 広鼻猿類はずつと遠い親戚筋に当たる。 本稿で紹介する論文では，狭鼻猿類を 構成するホミノィド類と旧世界ザル類 の初期化石と思われる2種類の霊長類 化石を報告している。両系統の分岐時 期は3,000万 approx 2,500万年前と推定さ れている力；、，この年代に当たる後期漸 新世の陸成層は世界的に少ないため化 石標本も非常に少ない。霊長類に限ら ずすベての生物の分岐年代については， 分子生物学的な分岐年代推定値と化石 記録が示す系統間の分岐時期にかなり違いがあり，一般的に前者が後者より も早いことが多い。これは2つの系統 群が分岐した初期段階では，両者の形 態的な違いが十分に区別できていない 可能性が強いためである。また化石記 録は往々にして不十分なことが多く ， 初期化石が見つかつていない「空白期 間」の存在が分岐年代推定値と化石年 代値のギヤップを生じさせていると思 われる。こういった本来あるべき化石 種が見つかつていない系統樹の部分を 「ゴースト系統(ghost lineage)jと呼 ぶのである力;'，今回のStevensらの論 文は初期狭鼻猿類のゴースト系統を埋 める貴重な化石である。