磁性の基礎とスピンエレクトロニクスへの展開II/2.非磁性金属中の磁性不純物によるスピン依存散乱

摘要

スピンエレクトロニクスの中枢をなす現象は伝導電子のスピン依存散乱にあるといってよく，この現象を制御することがスピンエレクトロニクスの最大のミッションである。 これについては近年の磁性人工格子の設計および微細加工技術の著しい進展がこの分野の大きな支えとなっていることは言うまでもない。 一方,制御の対象となるスピン依存伝導現象そのものは1950年代からの物性物理学分野の重要な関心事であり，我が国の磁性物理研究の牽引役となってきたことは特筆に価する。大胆な言い方をすれば，今日のスピンエレクトロニクスの諸現象に関する理論的考察ほ1980年代までのバルクにおけるスピン依存伝導現象に対する研究成果（知見）のうえに成り立っているといっても過言ではない。 特に，非磁性金属中の磁性不純物によるスピン依存散乱の考え方は，巨大磁気抵抗（GMR）効果や磁性層間相互作用の理論的解釈の基礎をなしており，その後のスピンエレクトロニクス研究の根幹を支える重要な概念となっている．