電子捕獲解離によるプロテオーム解析に向けて

摘要

ヒトゲノム解析終了後，プロテオーム解析が大きく発展している。 プロテオーム解析とは生体内で発現しているタンパク質の網羅的解析のことであり，個体差，病変差の情報を取得することにより疾病診断マーカとして，創薬のターゲット分子探索に有効と期待されている。またリン酸化修飾や糖鎖修飾などを受けた翻訳後修飾タンパク質もプロテオーム解析として網羅的に解析されることが望まれている。 プロテオーム解析の検出部には感度·選択性·高速性に優れた質量分析装置が使用されている。 日立ハイテクノロジーズでは昨年10月のタンパク質解析用液体クロマトグラフ質量分析計NanoFrontierの発表に続き，今年4月，感度を高めたNanoFrontierLを発表した。 線形高周波イオントラップによる高感度MS(n)分析による高いアミノ酸配列同定性能と飛行時間型質量分析(TOF MS)による高質量分解能特性を備えておりプロテオーム解析への貢献が期待される。 本稿は1998年の実現以来，大きな注目を集めている電子捕獲解離(electron capture dissociation: ECD)に対する日立グループの取り組みを報告する。ECDはペプチド配列の高い同定能力に加え，翻訳後修飾解析に有効である。我々は2003年よりNanoFrontierLでも採用されている線形高周波イオントラップ内部でのECDの先行開発を進めており，その実現を世界に先駆けて報告してきた。