小型霊長類コモンマーモセット内耳発生の解析：霊長類有毛細胞への再生医学的アプローチの基礎的知見として

摘要

後天性難聴に対する再生医学的ァプローチが近年?主目されている力5、聴力の再獲得を目指した再生医学 的な治療戦略を考える際には、正しい形作りの過程である発生学的知見が重要である。例えば、内耳発生の過程において、感覚上皮の領域決定や有毛細胞への運命決定にはNOTCHシグナルやWNTシグナルが 重要な役割を果たし、これらを標的とした薬剤による内耳再生医療の開発研究が国内外で進行中である。 一方、内耳感覚上皮の発生過程に関与するシグナルには種差が存在することも報告されてきた。例えば鳥 類は有毛細胞に自発的再生能があることが知られているが、実際、WNTシグナル関連遺伝子は、げっ歯 類と鳥類で発現パターンが異なることが知られている。他方、当研究室におけるこれまでの解析では WNTシグナル関連遺伝子の一部において、小型霊長類コモンマーモセットと齧歯類の内耳で発現パター ンが異なることを、主に成体蝸牛で確認してきた。これらの知見から、ヒトにおける内耳再生医療の現実 化には、ヒト内耳の発生を理解することが重要と示唆されるが、器官形成を解析するためのヒト胎児側頭 骨病理標本の入手は倫理的観点から現在非常に困難である。また、免疫組織染色等の分子細胞生物学的解 析が可能な検体を採取し得ることも技術的に重要である。以上の視点から、私達は、内耳再生医療のトラ ンスレーショナルリサーチの一環として、ヒト胎児側頭骨病理標本の代替となりうる霊長類モデル動物で の内耳発生研究が重要であると考えている。今回我々は、小型霊長類モデル動物コモンマーモセットの胎 児側頭骨を用いてその基礎的検討を行ったので報告する。