アルツハイマー病の記憶障害-日常記憶の障害を中心に

摘要

日常記憶とは実際の日常生活場面で必要とされる記憶である。認知症患者では，近時 記憶課題の成績低下と日常記憶障害が乖離することがある。アルツハイマー病を中心 とした認知症患者で，物忘れ外来のための日常記憶課題の成績が単語再生課題の成績 と乖離して保たれている症例を検討すると，構成課題と見当.識課題の成績が良好であつ た。そのような患者では，保たれた視覚認知機能や見当識が日常記憶を補助している のかもしれない。本特集における本論が著者に依頼されたということ は，認知神経心理学的な内容ではなく，臨床におけるァノレツハイマ一病(Alzheimer's disease ： AD)をはじめとす る認知症患者の記憶障害を症候学として取り上げるこ とを期待されたのであろうと考える。そこで本論で は，まず，臨床における記憶障害の図式と古典的な心 理学の枠組みとの違いを確認する。そして，日常生活における記憶の障害，すなわち日常記憶(everyday memory) 障害と いう 概念を紹介し，認知機能テストで測定 される記憶の障害との違いを指摘する。そのうえで， ADを中心とした認知症患者の日常記憶障害について のわれわれの臨床研究を紹介する。