乳癌の分子生物学と発症機序：概論

摘要

分子生物学の進展は，乳癌の発症機序の理解 を深めるだけでなく，治療メカニズムの解明に もつながることから，臨床上きわめて重要であ る.近年の研究成果によって，乳癌の発症や進 展，転移機序には，癌細胞における変異，癌細 胞をとりまく微小環境，宿主側の要因が，複雑 に影響しあっていることが明らかにされてい る.そして，それぞれのステップには多数の因 子が関与しており，その違いが乳癌のサブタイ プを規定するばかりでなく，転移能，薬剤感受 性の違いにも関連していると推測される. 分子生物学の知識は臨床の場にも取り入れら れ，治療体系にも大きなインパクトを与えてい る.従来，乳癌の術後療法は，腫瘍径，リンパ 節転移状況，グレードなどの病理学的因子を中 心に決定されてきた.その後，乳癌は網羅的遺 伝子発現解析によって，intrinsic subtypeと呼 ばれる発現パターンの異なるグループに分類さ れることが明らかにされた.