運転行動からのリスク知覚推定と高齢ドライバのリスク知覚分析

摘要

交通事故の人的要因の分析によると、ドライバの「思い込み」と呼ばれる要因が関与する事故が多い。 思い込みは、例えば「見ようとすれば見えた相手なのに見なかった」といった認知エラーや、「危険と判断できる状況であったのに回避操作をしなかった」といった判断エラーにつながる。 「思い込み」とは、交通状況に対するドライバのリスク知覚の程度が、交通状況の客観的な危険度（客観的リスク）よりも小さい状態を示すと考えられる（図l）。 リスク知覚と客観的リスクの双方を求めることができれば、ドライバが思い込み状態にあるか否かの評価が可能となる。さらに、ドライバが思い込み状態にある場合に、適切なリスク知覚に導くような支援を行うことで、効果的な交通事故低減が可能となるであろう（図2）。 一方、近年高齢ドライバによる交通事故が増加傾向にある。 高齢ドライバの一般的な特性として、認知·判断·操作の各段階での機能低下の問題が挙げられる。高齢ドライバの事故には、これら機能低下の要因に加えて、非高齢ドライバも含めた全般的な傾向として、思い込みが深く関与していると予想されるが、高齢ドライバのリスク知覚を扱った研究は少ない。 そこで本研究では、運転操作などからドライバのリスク知覚を推定して、ドライバの思い込みを評価する方法を提案する。また、リスク知覚および思い込みの簡便な測定システムとして、定置型の簡易なドライビングシミュレータ(DS)を製作する。 さらに、このDSによって計測された高齢ドライバの運転行動から、高齢ドライバのリスク知覚の特徴について分析する。これにより、高齢ドライバに対する効果的な運転支援を検討するための基礎とすることをねらう。