水俣学の創成と原田先生の最後の仕事

摘要

「私も専門家でありたいし，何か一つぐらい権威や大家になってみたい．しかし，とてもなれそうにない．鹿子木教授が私に『水俣病精通老』という名をつけてくださった．大変気にいっている．あの室原翁のように，斎藤さんのように，どこの誰がどうなったとか，どこの誰がいつ死んだとか，どこで子どもが生まれてどうだとか，一つ一つを頭に刻みつけて歩きまわる．おいしい寒漬があるといえば上がり込んでしゃべり込む，この地区の人たちの細かい変化を見ながらこの果てしない小道を歩きたい．それは決して，患者のためではなく，私自身のために．」