医療に貢献する冷凍空調技術：3.生体物質の凍結保存を目的とした凍結保護溶液の調製と冷凍技術の確立

摘要

生体物質のガラス化による凍結保存法が提唱されて以来，多くの実験が試みられてきたが，実用化に至った例はそれほど多くない．細胞内での氷結晶生成を妨げ，T{sub}gを上昇させることが可能な凍結保護物質には，細胞膜を透過することのできる低分子の物質に限られてしまう．しかし，ほとんどの低分子物質は結晶化しやすいだけでなくT{sub}gが低い．凍結保護溶液中の溶質濃度を高めることでこの問題をある程度改善することはできるのだが，高濃度の凍結保護溶液では生体物質に薬害損傷や脱水損傷を与えてしまう．この相反する問題を解決あるいは改善し，生体物質のガラス化保存をより広く適用可能とするには，凍結保護溶液として利用可能な物質の結晶化·ガラス化特性を十分に把握した上で，そのガラス化に求められる冷却および昇温速度の実現に努めなければならない．本稿では，生体物質の凍結保存に貢献し得るガラス化技術とその制約から求められる冷凍技術の展望について概説する．