地球微生物学（その1）微生物のエネルギー獲得戦略-岩石と放射性核種で呼吸する微生物

摘要

生命が誕生，進化，繁栄する地球は，我々が知る限り最も興味深い惑星の一つである。 太陽光エネルギーの供給度合いにより生物存在量がコントロールされ，それは水の物理学的存在状態に対応している。水は極地では氷として存在し，生物活動は氷の状態では営まれないが，微かな氷の溶解により生命活動が息を吹き返す。他方，砂漠では著しい水の気化により生物が必要な水を獲得する事が極めて困難である。 従って適度な太陽光エネルギーの供給と液体としての水の安定が熱帯雨林に代表される巨大生態系の形成や，植物の光合成産物である有機物と酸素を用いる動物の活動には必須である。 深海底熱水孔等の太陽光の届かない暗黒の世界でも局所的ではあるが，地表に匹敵する多様で密集した生態系が形成される。 この暗黒の生態系は中央海嶺やプレートの沈み込みに伴う熱水活動域に卓越し，太陽光エネルギーではなく，熱水から供給される化学的還元物質からエネルギーを獲得している。 しかし，この生態系を形成する生物がエネルギーを獲得する際に，還元物質を酸化するために利用するのは酸素であり，酸素は地球表層での光合成により生産される為，深海底の生態系ですら太陽光エネルギーに支配されていると言える。