ショウジヨウバエを用いたアルツハイマー病における睡眠剥奪の影響の解析

摘要

アルツハイマー病は最も一般的な認知症の原因疾患であ り，記銘カ障害を伴う神経細胞の機能不全を誘発し，最終 的には患者に死をもたらす。これまでの研究からアミロイド前駆体蛋白質の部分的切断から生成されるアミロイド/3 蛋白質がアルッハイマ一病の発生及び進行に重要な役割を 担っているという「アミロイド;8仮説」が提唱されているが， 近年，「睡眠不足」がァルツハイマ一病の進行を促進させる という報告があり，大きな注目を集めている。しかしなが ら，睡眠がどのようにアルツハイマー病に関与しているか については未だよく分かっていない。今回，我々は睡眠剥 奪によるアミロイド;8蛋白質の増加は睡眠剥奪によっても たらされる神経細胞の「過剰興奮」が原因であることを， ショウジヨウバエを用いて明らかにした。まず，睡眠剥奪 とアミロイドj8蛋白質は神経細胞に相互作用し，過剰興奮 を誘発する特性があることをショウジヨウバエの網羅的な 行動実験と電気生理実験によって見出した。次に，アミ口 イド;8蛋白質の蓄積と睡眠剥奪はそれぞれが異なるタイプ の電位依存性カリウムチャネルのコンダクタンス低下を引 き起こすことで，神経細胞の過剰興奮を誘発していること を見出した。最後に，アルッハイマ一病モデルのショウ ジョゥバエに神経細胞の興奮抑制効果がある抗てんかん薬 であるレべチラセタムを投与することによって神経細胞の 過剰興奮の抑制及びアミロイド;8蛋白質の蓄積量の減少が 起こることを見出し，さらにはアルツハイマー病ショウ ジョゥバエの短命な寿命を引き延ばすことが出来た。これ らの結果から，睡眠の欠如は神経の過剰興奮を介してアミ ロイド;8蛋白質の蓄積を促進させることが明らかとなり， アルッハイマ—病の進行遅延のために神経の過剰興奮を防 ぐことが有効である可能性が示咳された。