わが国における高齢者の介護予防に関する運動疫学研究の成果と今後の展望

摘要

高齢化に伴い我が国の介護費用は，財政悪化とも重な りながら増加の一途を迪つている.一方，少子化にも一 向に歯止めがかからないことから，日本の今後の年金制 度や介護費用の確保は益々困難な状況に陷つていくもの と予想されている.このようなわが国の状況にあって， 今まさに「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザィ ン」が広く求められている.介護予防への生活習慣とし ての運動の効果は期待されているものの，その証拠は十 分とは言い難い.これまで，高齢者の死亡や要介護状態 への運動効果に関する疫学研究は欧米を中心に活発に展 開され，その効果がメタ分析などで既に公表されている が，残念ながら我が国での取り組みはやや低調である. 近年,演者の一人である新開らは，高齢者の社会参加（勤 労，ボランティア活動，運動教室，稽古事など）が生存 率の延伸に密接に関係することを疫学的な前向き研究で 明らかにしている.しかしながち，高齢者の積極的な社 会参加を可能とする条件やその背景，要因に関しては不 明なままである.