第13回　もし，長崎の原爆が下村少年の命を奪っていたら

摘要

1945年，8月9日，午前11時2分，長崎市に原子爆弾が投下された．投下に先立って，米機が，放射能などを測定するための機器をパラシュートで落下させるのを，当時16歳の下村少年は目撃している．その後幾許もなく黒い雨を浴びながら，彼は，日本の未来そして自分の将来をどのように想見していたのであろうか．1960年，32歳の下村俺博士はフルブライト留学生として渡米した．氷川丸注1で太平洋を渡り，プリンストン大学に赴いた．1961年の夏より，バンクーバー島南端に近い小島にある，ワシントン大学フライデーハーバー研究所で行った，博士のオワンクラゲ発光物質との格闘は，「GFP発見の歴史」1）に詳しい．下村博士は，発光現象の解釈と研究アプローチに独自性を発揮し，イクオリン注2そしてGFP（green fluorescent protein）を発見，精製していった．オワンクラゲ発光のメカニズムの枠組みを鮮やかに解き明かした．