大腸菌多剤排出トランスポーターAcrBの結晶構造解析

摘要

近年臨床の場において，薬が効かない病原性細菌による感染症が大きな問題となっている，通常の感染症では，セフェム系薬剤とペニシリン系薬剤の2剤が奏効してきた。しかし耐性肺炎梓菌や耐性緑膿菌といった複数種の薬剤（多剤）に対して抵抗性を示す多剤耐性菌（単に耐性菌とも呼ぶ）が出現し，今までは効果を発揮してきた臨床例でさえ，ときとして危険な状態に陥れる。 この多剤耐性菌は院内感染や市中感染などで広がりをみせ，今や感染症の数割から半数以上が耐性菌によるものであるとも言われている。この耐性化の重要な要因は，薬剤排出タンパク質の過剰発現によるものであることが知られている。 この排出タンパク質群の働きにより,薬剤が細胞内の作用点に達する前に菌体内から排出されてしまうのである。 近年多くの微生物のゲノム配列が解析されているが，驚くべきことに細菌は多くの多剤排出タンパク質遺伝子をもつことがわかってきた。多剤排出遺伝子の1つ，AcrAB-ToIC系は大腸菌のもつ主要な多剤排出系で，大腸菌の自然抵抗性の主因でもある。 AcrBはResistance-Nodulation－Cell Division（RND）と呼ばれる膜輸送体（トランスポーター）ファミリーに属し，ポリトピック型膜タンパク質でトランスポーター本体であるAcrBのほかに，膜融合タンパク質（Membrane Fusion Protein）であるAcrA，外膜貫通チャンネルToICと三者複合体を形成し機能している。