がん治療センター身体にも精神（こころ）にも優しいがん治療の実践とその効果 新しいタイプの外科医育成を目指して

摘要

がん患者における最大かつ最高の医療は，がんに伴うすべての症状とがん自体を消滅させ，完全なる安心を提供することである.しかも，患者の立場からはその医療の実施段階においても身体的かつ精神的な侵襲をほとんど加えずに行われるベきものである.外科医の立場から言えば，外科治療として根治的な切除を行えば理想的な医療が実践できそうである.しかし，いかなる低侵襲の治療を行おうとも皮膚切開や組織切除などの生体への侵襲の回避は不可能であり，ましてや手術に対する不安や精神的な心の負担，いわゆる心痛はかなりのものである.さらに，現時点の医学では外科医の立場からがんの再発を完全に阻止することは困難である.そこで，全人的な，いわゆる患者の立場に立った医療を展開するためには，がんと診断された治療早期からの患者支援はもちろんのこと，担がん状態，すなわちがんとともに生きる患者に対する身体にも精神（こころ）にも優しいがん治療，すなわち真の意味での緩和医療が必要となる.本稿では，わが国の将来において必ず必要とされるであろう"身体にも精神（こころ） にも優しいがん治療の実践とその効果を示しつつ，この概念を踏襲した新しいタイプの外科医の育成に向けての試みについて述べる.