喫煙とCYP2A6の遺伝子多型

摘要

喫煙によって吸収されたニコチンのほとんどは,肝において薬物代謝酵素チトクロームP450の一分子種であるCYP2A6によってコチニンヘと代謝される.ヒトにおけるニコチンの代謝能には大きな個体差が存在し,CYP2A6の機能変化に起因すると考えられる.CYP2A6遺伝子には13種類の遺伝子型が報告されている.野性型のCYP2A6*1A ,偽遺伝子であるCYP2A7との遺伝子変換型であるCYP2A6* 1BとCYP2A6*3,重複型のCY2A6* 1X2,遺伝子全欠損型であるCYP2A6*4 ,一塩基置換(single nucleotide polymorphism :SNP)型のCYP2A6*2ならびにCYP2A6*5-CYP2A6*11である.このなかでCYP2A6*1X2,CYP2A6*2,CYP2A6*3,CYP2A6*5およびCYP2A6*9は.日本人ではいままでのところ認められていない.全欠損型であるCYP2A6*4の遺伝子頻度は日本人では約20%と高く,100人に4人はCYP2A6の機能をまったく欠損していることになる.著者らの研究により,CYP2A6*4,CYP2A6*7,CYP2A6*10のいずれかをホモで有する被験者ではニコチンを代謝できず,ずなわちCYP2A6の酵素活性が欠損または顕著に低下していることが明らかになっている.CYP2A6はタバコ特有のニトロソアミン類の代謝的活性化にも関与するため,肺癌感受性との関連も示唆きれているが,CYP2A6の遺伝子多型と喫煙の習癖性,ならびに肺癌リスクとの関連はまだ不明なところが多い.