体外受精学小史

摘要

食とともに生殖は自己のゲノムを引き継いだ子の誕生にかかわる生命活動であるから,古来歴史を動かす原動力であり続けた.本稿では,生殖の原理が必然的に生み出したヒト体外受精学の発展のあゆみを4つの区分に分けてたどってみた.生命発生について古代ギリシャの精子起源説は約2000年にわたり中心教条として信奉されたが.16世紀半ばに卵子起源説が台頭すると精子学派と卵子学派との間に2世紀にわたる激しい論争が繰り広げられた.19世紀後半になって受精現象の発見がこの論争に終止符を打ったが,これを機に体外受精学が勃興した.蓄積された科学知見をと卜に応用して,1978年ついに体外受精兜が誕生した.その後,20年の短期間に多様な関連技術が派生し,生殖補助医療技術という不妊治療大系ができあがった.期せずして提起された生命倫理の問題には真摯な対応が必要であるが.現存の方法の限界を考えるとさらに前進しなければならない.現在のわれわれに投げかけられた課題は大きくて重い.