医療事故に陥らないために一事例から学ぶ，より安全な医療への教訓 司法判断との乗離事例（その2）一調停による解決事例を中心に

摘要

本連載は，これまでも繰り返し述べているとおり，ある医師団体の医事紛争解決支援活動部門が各種の医事紛争事例を可能な限り医学的に分析のうえ「私的」に，すなわち裁判外で過誤の有無について判断を行った結果を，筆者が再評価して解説しているものである．前回（第11回：90巻5号）は上記の過程で「無責」と考えた事例が，訴訟判決上「有責」とされた事例を中心に解説した·今回は，前回と同様「私的」判断においては「無責」と考えられたにもかかわらず，裁判所の判断に基づく「調停」により一定の賠償金（和解金）を支払う結果となったものを中心に解説する．この場合，裁判所が明確な「過誤の有無」の判断をした訳ではないにしても，無責を主張した医療機関としては，賠償金を支払う結果に釈然としない場合もあり，個々の事例からその「無念さ」を読み取っていただければと考える．なお，一部の調停案件では，調停に至る過程の検討内容が不明瞭のものや，和解金算定の根拠が不明の事例も含まれていることをあらかじめ了解されたい．