小児白血病-成因に関する研究の進歩を考える

摘要

白血病はその他のがんと同様に，がん化に向けた複数のイベントが蓄積する結果おこると考えられている．また，このイベントは環境要因と遺伝要因の複雑な相互作用により規定される．発がんの原因となるイベントとは何であり，それがいつどこでどのようにおこるのかという視点にもとづいて白血病の発生を考えていくと白血病の治療法の開発やその予防対策を講じる上で有用な発見に結びつく．近年，小児白血病をめぐってそれが個体の成長過程の「いつおこるのか」，白血病化に至る分子機構として「何がおこるのか」，またそれが「なぜ起こるのか」についての研究が着実に進歩しつつある．本稿では小児白血病を中心に特に「いつおこるのか」「なぜ起こるのか」のテーマに沿って研究の進歩を考察してみたい．　 一般にがん／白血病の原因を語る場合，腫瘍細胞の個性としての分子異常と腫瘍化を導いた分子異常は別の物として考察されなければならない．原因とは腫瘍化を導く分子異常をさすべきであり，それを操作することによって予防に結びつくものであるべきである．その意味で腫瘍の個性化を導く分子異常とは区別すべきものである．白血病を個性化する分子異常の研究は，介入によって治療法に結びつくかもしれない．その一方でいつ，どのようにして分子異常がおこるのかの理解なくして，予防対策は講じられない．今後の課題として予防法の開発に結びつく原因究明の研究が求められる．