シンポジウム2「STDと不妊症」3）卵管留水腫と体外受精 －卵管留水腫摘出の有用性

摘要

不妊原因の一因である卵管性不妊は，若年層の性行為感染症（sexually transmitted disease；STD）の波及に伴い増加の一途をたどっている．卵管性不妊は主に子宮内膜症や卵管炎に起因することが多く，また，障害の進行程度によっては不可逆的な変化をもたらす結果となる．従来，卵管に炎症を起こす原因としては，細菌感染がその大部分を占めており，かつて淋菌性卵管炎は全卵管炎の70～80％を占めていた?しかし，最近では無症候性のクラミジア卵管炎が若年層の問に急速に拡大し，卵管性不妊の主因となっている．クラミジア卵管炎は，これに引き続く合併症として骨盤腹膜炎やダグラス窩膿瘍などがあるが，後遺症としての卵管周囲癒着や卵管留水腫（hydrosalpinx；HYD）を引き起こす結果となる．卵管周囲癒着は子宮外妊娠の一因となり，また，HYD例では体外受精一胚移植（in vitro fertilization－embryo transfer；IVF－ET）での着床率，妊娠率が低下し，流産率は上昇するとの報告が多く，生殖補助医療技術（assisted reproductive technology；ART）での取り扱いをめぐり問題となっている．HYDには，膨大部のみに腫大を観察できるTypeと子宮卵管角部から膨大部にかけて腫大を観察できるTypeに大別できる．これらHYDを対象とした卵管開口術施行後の妊娠率などの成績は悪く，また，術後の経過観察期間をどの程度にするか検討の余地がある．今回，STDの一つであるクラミジア感染症のIVF－ETへの影響について検討するとともに，HYDのIVF－ETへの影響とHYD摘出の有用性について，当教室において施行したIVF－ETの成績をretrospectiveに比較検討してみた．