噴射ノズル内流れ解析と噴霧形成シミュレーション技術開発の現状

摘要

近年，地球温暖化に歯止めをかけるため二酸化炭素の排出を規制する動きが世界的な規模で行われ始めている。 これを受け，自動車業界では低燃費車が一層求められるようになってきた。こうした中，この課題を克服する技術としてエンジンの燃焼室に直接燃料を噴射するいわゆる直噴エンジンが開発され，現在すでに市販化されている。 ガソリン直噴エンジンに関しては，1996年に三菱自動車とトヨタ自動車が，翌年には日産自動車が市販車に搭載している。 また，ディーゼルエンジンにおいては，現在市販されているほとんどの乗用車用エンジンが直噴ディーゼルエンジンを搭載している。 この直噴ガソリンエンジンおよび直噴ディーゼルエンジンにおいては，燃焼室内の混合気の分布が燃費および排気性能に大きく影響を与えることから，この混合気形成を決定づける「噴霧」形成が極めて重要である。 このため，要素技術としてこの噴霧設計技術に関して多くの研究が行われてきた。 一方，内燃機関100年の歴史の中でこの10年以内にこの筒内直噴の技術が開発されてきた背景には，筒内の混合気場を3次元で予測可能なCFD（Computational Fluid Dynamics：数値計算流体力学）技術が急速に実用化の域に達したことが挙げられる。もちろん3次元の筒内の流れ場を計算できるようになったことに加えて，噴霧設計技術にもこの3次元CFDが用いられるようになり，より高精度に噴霧が予測できるようになってきたことも直噴エンジン開発に大きく貢献していると考えられる。 特に，噴射弁から噴射される噴霧は，噴射弁の中の複雑な流れ場が大きく影響しており，噴射弁の開発にCFDを用いることは今や常識となりつつある。 しかしながら，この最新のCFD技術を駆使してもなお，完全に物理現象を模擬できているわけではなく，エンジン性能を完全にバーチャルで予測できるレベルにはに至っていないことも事実である。 ここでは，直噴エンジンに用いられている各種インジェクタとその噴霧特性に関するCFDを用いた最新の解析技術とその動向について概説する。