視覚刺激に誘発される反射的腕応答視覚入力特性に依存した腕応答変化

摘要

上肢到達運動では，到達目標の移動により短潜時で腕応答が起こる現象が従来確認されているが，近年目標の移動だけでなく背景の移動のみでも短潜時で応答が発現することが発見された．しかし，この応答に対してはいくつかの解釈が存在し，情報処理メカニズムの解明にはいたっていない。 本研究ではそのメカニズムの解明を目指し，視覚刺激入力変化に対する腕応答変化を定量化してその特性を調べた．ディスプレイに提示した視覚刺激エリアのコントラスト，時空間周波数を変化させた際の腕応答を調べた結果，（1）10％以下という低域でのコントラスト変化で応答が急激に上昇して飽和すること，（2）腕応答の上限はどの空間周波数の刺激でも時間周波数で10Hz付近であること，（3）0.1c/degという低空間周波数の刺激が最適であることが分かった。 以上の結果はサルにて得られているLGNのmagno細胞，MT野の活動特性と類似点が多く，これら脳部位との関連が示唆される．さらに反射性眼球運動の一種である追従性眼球運動 (Ocular following response: OFR) の応答特性と比較した結果，きわめて良く似た傾向を示すことが分かった。 この結果は，視覚刺激に誘発される反射的腕応答に関連する脳部位及び情報処理メカニスムが，OFRと類似していることを示唆する．