純虚数零点をもつ多入出力連続時間系に対する離散化モデルの零点：相対次数1の場合の多入出力系への拡張

摘要

一般に，零点が不安定なシステムは制御がむずかしいことが知られており，モデル規範形適応制御のような零点消去にもとづく方法の多くはそのようなシステムには適用できない．零次ホールドを用いて連続時間システムを離散化するとき，極の安定性は保存されるが，零点の安定性は必ずしも保存されない．近年，連続時間システムから直接ディジタル補償要素を設計する方法の研究が進められているが，ディジタル適応制御系設計では離散化モデルにもとづく方法が一般的である．離散化モデルの零点の安定問題は最初にAstrom et al. により論じられて以来，いくつかの研究結果が報告されている．多くの場合，離散時間システムの零点の値はサンプリング周期に依存するため，サンプリング周期によらない性質を解明することはむずかしいことから，サンプリング周期を零に漸近させるときの零点の極限値や，極限値近傍でのサンプリング周期に関する近似式が主に検討され，安定条件が明らかにされている．連続時間システムが純虚数零点をもつ場合の離散化モデルの零点の安定性は；これまで1入出力系について解明されているだけで，多入出力系については論じられていない．そこで本論文では，連続時間多入出力系が純虚数零点をもつ場合に，その離散時間モデルの零点の安定性を考察し，純虚数零点に対応する離散時間系の零点が微小サンプリング周期で安定となるための条件を明らかにする．ここでは，入出力数が等しい正方システムで無限単因子の次数がすべて2の場合を扱う．これは1入出力系では相対次数1の場合にあたる．