産業酵母の育種技術の現状と展望特集によせて

摘要

酵母の代表的な菌株でめるSaccharomyces cerevisiae は，高等生物のモデルとして基礎研究に使われる「実験 室酵母」と，多くの発酵食品や酒類，バイオエタノール などの製造に用いられる「産業酵母」に分けられる.実 験室酵母には遺伝解析やゲノム解析による膨大な基礎的知見が集積され，遺伝子組換え技術も確立しているが， 一般に発酵力はきわめて弱く発酵食品などの生産には不 適である.一方，産業酵母（パン酵母，清酒酵母，ビー ル酵母，ワイン酵母，焼酎酵母，バイオエタノール酵母 など）は発酵性や生育速度に優れた菌株が選抜されているが，遺伝特性や倍数性が異なっているため，実験室酵 母の知見や技術をそのまま適用できないのが現状であ る.酵母利用産業は8兆円もの巨大な市場を形成してお り，当該産業の高度ィヒゃ効率化に向けて産業酵母開発の 試みカミ'続けられている.育種の現^(犬としては，おもに自 然分離，突然変異，交雑や融合などの古典的手法によつ て行われている.一方で，ゲノム情報やポストゲノム解 析を活用して産業酵母の有用機能（発酵能，耐久性，ェ タノール生産性，味、風味など）を飛躍的に向上させる 研究も展開されている.しかし，セルフクローニングを 含む遺伝子組換え技術，染色体工学などの分子生物学的 手法は，依然として社会的受入れが困難な状況にある.