現在の日本飼養標準ではセレンの要求量は濃度表示のため乳牛のセレン摂取量は飼料摂取量に依存している.しかし本来生理状態に応じた必要量を給与すべきで卒り,それには絶対量での要求量表示が有用であることから,その基礎資料を得る目的で妊娠末期と泌乳期にセレン出納試験を行った.また受精卵移植技術の向上に伴い可能となった多胎妊娠時の胎児数のセレン要求量への影響も同時に検討した.実験Ⅰとして,黒毛和種牛受精卵を移植したホルスタイン種の単胎牛5頑および双胎牛4頑を用い,妊娠190日から分娩まで飼養試験を行った.妊娠210日および266日時の出納試験(妊娠末期)の結果,0.106ppmセレンを含む飼料を与えた場合,セレンの平均摂取量および蓄積量はそれぞれ973.3 mu g/日および136.9 mu g/日であった.また胎児2頭分増給区で1頭分増給区より蓄積が多かった.双胎妊娠と単胎妊娠との間にはセレンの蓄積量には有意な差はなかったが,産子の血中セレン濃度は双子において有意に低かった.また飼料の増給,単子,双子に関わらず産子の血中セレン濃度は適正水準より低く,セレン不足がうかがわれた.母牛の全血中セレン濃度についても適正水準を下回っていた.実験Ⅱとして泌乳牛4頭を用いて分娩後平均67日時に出納試験を行った.飼料摂取量の増加および飼料の平均セレン含量の増加(0.226ppm)により,セレンの摂取量は妊娠末期の4.7倍(4,611 mu g/日)に達し,蓄積量も300 mu g/日と妊娠末期の2,2倍となった.また血中セレン濃度は適正水準の範囲にあった.これらの結果から妊娠末期におけるセレン供給不足が示唆された.
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