ブタの抗病性育種の取り組みと成果

摘要

国内外の養豚生産現場で最も重要な病気は.呼吸器病症候群（PRDC)の病名に象徴される病原微生物の混合感染によ る複合呼吸器病である.豚萎縮性鼻炎（AR).マイコプラズ マ性肺炎（MPS),豚繁殖、呼吸傷害症候群（PRRS)など の慢性疾病による被害は，北アメリカだけでも年間18億ド ルと推定されている（MallardとWilkie 2007).国内でも宮 城県の食肉衛生検査所事業概要の報告（平成21年度-平成 24年度）によると.出荷豚のマイコプラズマ性肺炎による一 部内臓廃率は，32%-40%と報告され，最も多い疾病となつ ている.マイコプラズマ性肺炎（MPS)はマイコプラズマ-八ィ才ニュ一モニエが主要な原発要因として重要であるが， 肺炎が引き起こされるメカニズムは明らかでない.養豚生産 現場では，肥育前期までの飼料には抗菌性添加剤が添加給与 されているが，抗生物質耐性菌の出現や肉への抗生物質の残 留の危険性からEUでは2006年から添加禁止，韓国でち 2011年に禁止されている.我が国における養豚生産現場で も早急な対応が求められている.疾病コン卜口一ルの方法と して，ワクチネ一シヨン，投薬，予防衛生，SPF化があるが， 必ずしも万全とは言えない.これらの技術を補うちのとして 抗病性育種がある（Nishidaら2001).しかし.病変を直接 の選抜形質とした抗病性育種は，その必要性は認められなが らも手法に課題があり，レブ卜スピラ症を除いて報告はない (WilkieとMallard 2000).ブタの抗病性育種には，(1)種畜 候補豚やきようだい豚，後代豚を病原体に暴露させ，抵抗能 力のある個体やきようだいを選抜する直接的方法と，②ワク チン接種に対する免疫反応を含む各種免疫形質を指標とした 間接的方法が考えられるが.宮城県畜産試験場はランドレ一 ス 種に ついて 慢性 疾病で ある マイコプラズマ 性 肺炎 (MPS) 病変を測定して選抜形質とした5世代の選抜を行い.MPS 病変の少ない集団を造成した（Kadowakiら，2012).病変 そのものを直接選抜形質とした育種改良は世界で初めての快 挙と言える.また，曰本八ム中央研究所は大ヨークシャー種 について，末梢血の自然免疫と獲得免疫能の総合育種価を高 める方向に6世代の選抜を実施し.各形質とも1標準偏差以 上の育種価の上昇が認められ免疫能の高い集団として確立し た.しかし，これら2つの集団の免疫調節および疾病防御機 構の詳細は明らかでない.また，育種改良は純粋種について 行われるが，肉豚生産は純粋品種の交雑により行われる.純 粋種の抗病性が改良されればそれらの交雑によるへテローシ ス効果により抗病性機能がさらに高まることが期待される.