生物情報科学,細胞生物学的手法から見えてきた植物栄養応答3.大規模データが解き明かす植物の土壌ストレス耐性システム

摘要

植物は，土壌，温度，光条件，病虫害などの多種多様な ストレスに曝されながら生育している.実際のストレスは 単独ではなく，複数のストレス要因が複合的に作用して植 物の生育を阻害することが多い.例えば，酸性土壌では低pH環境によるプロトンストレスに加えて，溶出するアルミ ニゥム（A1)やマンガンなどの過剰害および，リン酸ゃホ ゥ素などの欠乏症状が発生することが知られている.塩害 地では塩による浸透圧ストレスと同時に力リウム.カルシ ゥム欠乏が起こり，寒冷地では低温ストレスの直接的な影 響に伴って上壌水分の凍結による乾燥ストレスが植物にダ メージを与える.それぞれのストレス要因は植物体の複数 の組織や細胞器官において様々な損傷を与える.植物はそ のような複合的なストレス環境下で生存し成長を続けるた めに，それら複数のストレス.組織.時間軸に応じて，複 雑な耐性機構を実にバランス良く制御している.本稿では， 土壌環境ストレスに対して植物が備えている耐性機構の複 雑性について例示した上で，それを紐解くための生物学的 大規模データの利用事例を概説し，将来の展望について述 ベたい.