生物情報科学、細胞生物学的手法から見えてきた植物栄養応答6.次世代トランスクリプトーム解析による 植物の新しい無機栄養応答機構の探索

摘要

トランスクリプト一ム解析とは，個体，組織，細胞にお ける転写産物の全体像を，定量的あるいは定性的に把握するォミクス手法の一-5である.これまでに，植物の栄養応 答に関わるいくつかの重要な遺伝子や制御機構は，このト ランスクリプトーム解析により明らかにされてきた.一昔前までのトランスクリブト一ム解析といえば，RNAの ハイプリダイゼーシヨンを利用したマイクロアレイ法によ る遺伝子の発現定量解析が主流であつた.しかし近年で は，次世代シーケンサ一（Next-Generation Sequencer, NGS)の性能が向上するにつれて，トランスクリプトーム解析をNGSで行う「RNA sequencing (ENA-Seq)jが広 く利用されるようになってきた.RNA-Seqの最大の特徴 は，転写産物の量的情報だけでなく，配列情報も同時に取 得できることにあり，転写産物の構造変化の検出や，新奇 転写産物の網羅的探索などにおいてその威力を発揮する.最近では，植物栄養学の分野においても，RNA-Seqを用 いた研究成果が報告されている.しかしその多くでは，遺 伝子の発現量の解析を目的とした利用に留まり，RNA-Seq の優位性を活かした研究例は未だに少ないのが現状で ある.本稿では，RNA-Seq解析における筆者の経験を踏 まえ，RNA-Seq技術の概要からRNA-Seqの特徴を活か したアプリケーション，実際のRNA-Seq解析の流れにつ いて解説するとともに，後半では筆者らがRNA-Seq解析により明らかにした，低栄養ストレスに応答したmRNA のェキソン構造制御に関する知見ついて紹介する.