近年の腐植物質分析法の展開5.サイクロトロン質量分析

摘要

質量分析は，その名のとおり，物質の分子量（質量/電荷比=m/z）に基づいた分析法である.構成元素がある程 度分かっていれば，質量情報から分子式の推定を行うこと ができ，加えてフラグメンテ一ションによる開裂イオンか ら部分構造を推定できるなど，有機分子の構造に関する有 力な情報を提供することが可能である.質量分析は，ィォ ン化した分子を気相で分析する技術であるため，測定され た結果が実際の試料中に存在する物質のどれくらいに相当 するのかが分からないという問題を常に抱えてはいるが， NMRやX線解析などに比べ感度が高く ，微量の試料でも 測定できるという利点を有している.このため，大量の試 料を得ることが難しい，生命科学分野や医学分野において 積極的に用いられ，生体内のタンパク質や糖.代謝生成物 などの分析に活躍している.フーリェ変換イオンサイク口 ト口ン共鳴型質量分析（Fourier Transform-Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometry, FT—ICR MS)法は，30年 以上前に開発されたComisarowand Marshall, 1974)方 法であるが，他の質量分析法をはるかに超える高分解能、 高精度な分析が可能であり，近年になつて安定な高磁場を 得られるようになったことから飛躍的に進歩してきた.河 川起源腐植物質（Kujawinski et al.，2002)'石油試料(Klein et al.,2006) 、植物試料(Iijima et al.,2008)をはじめとす る様々な試料に適用され，未知化合物の網羅的同定に威力 を発揮している.本稿では，FT-ICR MSの原理の説明と イオンィ匕法の紹介の後，質量スぺクトルの解析法について 主に天然水溶存有機物(DOM)の分子レベルキャラクタ リゼ一ションを例にして解説する.