寄生虫毒素性食中毒: 馬に寄生する Sarcocystis fay enの 構成タンパク質が食中毒を誘発する

摘要

海産魚介類のァニサキス，ホタルイカの旋尾線虫，淡 水魚類の顎口虫や肝吸虫，ァュゃシラウォの横川吸虫， サヮガ二の肺吸虫，サクラマスの裂頭条虫，豚や熊の旋 毛虫（トリヒナ），豚の有鉤囊虫，牛の無鉤囊虫，野菜 の回虫のような蠕虫は，食品とともに人の体に取り込ま れた後，人体組織内に侵入，感染し，病的症状を誘発す る.ェキノコックスの虫卵に汚染された水からも感染を起こす[1-3].食中毒は食品媒介性の疾患なので，下痢 や嘔吐といった消化器症状を呈するものだが，蠕虫が原 因の場合，消化器系以外の症状も誘発する.旋尾線虫の 幼虫が移行して起こる皮膚爬行症や，胃壁を貫通するァ ニサキスのように，「感染」「寄生」という現象に基づいて症状が誘発される.これらの寄生虫性食中毒は，食中 毒（食品媒介性疾患）というよりも，人獣共通感染症と いう範疇に入れた方が理解がよい[3].原虫も同様で， トキソプラズマは感染に由来する症状を誘発する力《，ク リブトスポリジゥム，サイクロスポーラ，赤痢ァメ一 バ，ランブル鞭毛虫等は，感染由来の症状に加え，腹 痛，下痢，嘔吐といった食中毒症状を誘発する.蠕虫や原虫を問わず，寄生虫に由来する食中毒の消化器系症#t が，特定の物質，すなわち「毒素」で誘発されることが あるだろうカゝ.これまでの寄生虫による「食中毒」で は，その発生メカニズムに関し，毒素のことはまったく 考慮されていなかった.本総説では，馬肉による食中毒の原因がフヱイャ一住肉胞子虫Sarcocystis fayeriであ つたことを示すとともに，同寄生虫体を構成する特定の タンパク質が「毒素」として作用し，腸管腔内に水分貯 留を誘発する毒性，すなわち腸管病原性を発揮したこと から，「寄生虫毒素性の食中毒」という新たなカテゴリ—の食中毒を紹介する.