古くて新しき課題--森林昆虫の個体群動態研究

摘要

生物の大発生や周期変動という現象は、生態学においては古くて新しい課題である。 なぜ生物の数は大きく変動し、大発生が起きるのか？ なぜ周期性がみられるのか？ 生態学が登場するずっと苦から語り伝えられてきた硯象は、程度の違いこそあれ、今日でも世界各地で目にすることができる。 タビネズミやトビバッタ、ハマキガなどの例はしばしば教科書にも登場し、個体群動態における重要なイベントとして、多くの研究者の関心を惹きつけてきた。 また、とくに北米や北欧の森林国では、森林昆虫の大発生機構の解明は、生態学的な興味とともに、現実的な問題として重要課題の一つでもあった（e.g. Royama 1984）。 しかし、目の前の現象の分かりやすさ一時として森は丸坊主に一にもかかわらず、その発生機構はさまざまな要因と複雑な過程を含んでおり、いったい何が効いているのか？　を特定することは容易ではない。こうした個体群密度の制御に関わる要因としては、利用可能な資源量、捕食者の存在、個体間の相互作用、植物の質（防御）、および気象などの不安定な環境要因が考えられるが、加えて密度依存性の有無や、それらの時間的、空間的な作用機序（即時的か遅延的か、局所的か広域的か）の違いが形作るマトリクスが、固有の変動パターンを作り出している。 さらに、哺乳類の場合には、密度依存的な行動変化や遺伝的変化などの内部要因が、その機構を一層複雑なものにしている。