伝統民家における環境調整手法と現代への応用の可能性

摘要

現代の住宅は旧来の民家に比べて多くの点で豊かになり、我々はたくさんの便利な機能を手に入れた。 その一方でエネルギーの大量消費、アレルギーやシックハウスといった問題などをかかえている。 この総説では民家に蓄積した経験的な知恵を今後の家づくりに役立てられるようその可能性を探った。 まず江戸時代から現代までの民家の室内環境を振り返り、その実態を把握した。 江戸時代における民家室内の多くは土座で、開口部も少なく閉鎖的で薄暗い環境であった。 明治以降に窓あけ運動が行われ、気候に応じて開口部も改良された。 現存する民家を対象に温熱環境計測、意識調査を行い、夏季は涼しく過ごしやすいことが示されたが、冬季の室内は寒冷で厳しい環境であった。 全国の民家平面の調査結果から、民家の開口部配置を類型化した区分図を示した。これは気候に適応したものであり、温暖地における現代の住まいづくりにも有効と考えられる。現代住宅の多くは個室化が進み、通風を行うことが難しい間取りとなっている。 住宅室内の室と室のつなぎ方について民家からその工夫を学ぶ必要性があることを示した。