植物はアブシシン酸を非メバロン酸経路で，糸状菌はメバロン酸経路で生合成する

摘要

アブシシン酸（abscisic acid，略称ABA）は，気孔の閉鎖や低温耐性の誘導，種子胚の発達などに必須の植物ホルモンである．この生理作用のため，ABAは農業生産にとっても利用価値が高い．ABAは植物だけでなく，植物病原糸状菌によってもっくられる．最近，中国では，糸状菌を用いて発酵生産された天然型ABAが農作物の増産に広く利用されている（私信：禿　 泰雄氏）．植物が水分不足になるとABAは急速に増加する．この増加は主に生合成の高進によってもたらされている．したがって，ABAの生合成径路の解明ほ，その濃度を人為的に制御するためにも重要である．しかし，その生合成経路は完全には解っていないい特に，数年前から，植物のABAは非メバロン酸経路によって生合成される可能性が指摘されながら，実験証拠はほとんど報告されていなかった．本論又は，植物がABAを非メバロン酸経路で生合成することを初めて証明するとともに，糸状菌は植物と異なりABAをメバロン酸経路で生合成することも明らかにしたものである．なお，本解説では論文中のFig．1とTableI以外の図表は割愛した．