農業効率化と市場競争性に対応した輸入関税削減幅に関する理論的考察 - 不完全競争下の価格伝達性に対する規模の経済性の影響をめぐって

摘要

WTO体制のもと，米国や豪州をはじめとする農産物輸出国から，農産物.加工食品の関税削減要求が強まっている．こうした農業貿易自由化に対応するため，日本においては認定農業者制度の活用.農地制度の改革.企業の参入促進など，農業構造改革によっていかに国内農業の生産性を向上させるか，喫緊の課題となっている．本稿では国内農業の効率化と輸入関税削減が，原料農産物から加工食品への価格伝達性にどのような相互的効果をもたらし，農業生産者と最終消費者にどのような影響を与えるのか，価格伝達モデルを用いて理論的に考察する．特に，農業効率化と関税削減のもとで，寡占的食品産業におけるその規模の経済性が価格伝達性へどのような効果をもたらすのか分析する．その効果を念頭に置きながら，構造改革によって農業効率化が図られ，かつ各輸入関税の引き下げが実行される場合に，農業生産者の利益を維持しつつ，消費者利益の拡大に資する関税削減幅やその際の重要な要素について理論的考察を行う．