WTO体制下の畜産政策と経常対応

摘要

畜産は農業基本法の選択的拡大路線下にあって，自立経営農家の創設の手段として期待され，急速に発展していった．しかし，新基本法において畜産に関して言及されている点が，家畜排泄物だけであることに象徴されるように，日本農業における畜産の位置付けは，この間大きく変化してきている．戦後畜産の発展は，①畜産物消費の急速な拡大，②国境措置，価格支持政策などが支えてきたが，近年こうした要素が失われつつある．本稿では戦後畜産の急速な発展を支えてきた上記2点を手ががかりに，輸入自由化によって最も影響を受けたと見られ，また価格政策の上でも大きな変化を遂げている肉用牛部門を対象に，自由化後の需給構造の変化と政策および経営対応について検討していく．また，急激な政策変更過程にある酪農業の政策的課題についても，分析していきたい．