プロリンのストレス保護機能と代謝調節機構: 酵母を用いてその魅力と謎に迫る

摘要

プロリンには適合溶質としての浸透圧調節の他に，タンパク質や細胞膜の保護，タンパク質の凝集阻害，活性酸素種（ROS）の消去，核酸のT_m値低下など，多彩な機能が知られている．最近では，植物病原菌や動物細胞におけるROSを介したアポトーシス様細胞死を抑制することも示された．筆者は，プロリン溶液に酵母Saccharomyces cerevisiaeを懸濁すると，トレハロースやグリセロールと同様に，冷凍後の細胞の生存率低下を防ぐことを見いだした．プロリンは細胞内の水分子との親和性が強く，冷凍状態での細胞内での氷結晶の形成や成長，あるいは細胞外への脱水を阻害するためと考えられる．しかし，個々のメカニズムには不明な点が多い．酵母においては，プロリンは細胞質で主にグルタミン酸から、グルタミルキナーゼ（GK），グルタミルリン酸レダククーゼ（GPR），1－ピロリンふカルポン酸（P5C）レダククーゼにより合成される．一方，過剰のプロリンはミトコンドリアでプロリンオキシダーゼ（PO），P5Cデヒドロゲナーゼにより酸化され，グルタミン酸に変換される（図1）．動物や植物では，P5Cシンセクーゼ（P5CS）がGKとGPRの融合タンパク質として機能している．