家蚕による繭作りの創意工夫:トレ八ロースの絹糸腺における生理機能をさぐる

摘要

家蚕の絹糸腺にトレハロースとトレハラーゼが共存することを見いだしてから30年以上が経過した（Shimada, 1975; Shimada et al, 1980).当時，トレハPJrスは，昆 虫等の無脊椎動物の主要な血糖として同定され，酵素ト レハラーゼによる加水分解過程を経て生体エネルギー源として代謝利用されるとされていた（Shimada, 1976)。 その後のトレハロ一スに関する一連の研究は，トレハ ロースそのものが，生体内において特異な生理機能を果 たしていることを明らかにした（Thompson, 2003)。—そ の基本的な機能は，生体膜構造ゃタンパク質の安定化作用である。トレハロースは，その分子特性により，生体 高分子との水和作用を介して，生体機能物質の変性凝集 を防止するとされている。これらのトレハロースの分子 レベルでの作用が多様な生理的な機能の発現に与ってい る（Elbein et al.,2003)。つまり，生物は生命活動が脅か されるような，高温，低温，凍結，乾燥，高圧，無酸素 状態等のストレスが与えられる環境に遭遇した場合，ト レハロースを生体内に乾燥重で約10-20%の高濃度で 蓄積することにより，ストレスに耐えて生存できること が明らかにされている。ストレス環境からの解放にとも なって，生体はトレハロー スを排除するために，その分 解酵素であるトレハラーゼを誘導し，トレハロースを速 やかに分解するものと考察されている（Singerand Lindquist, 1998)。