腸内細菌のパントテン酸前駆体の投与がパントテン酸欠乏幼君ラットの成長とパントテン酸の尿中排泄量におよぼす影響

摘要

パントテン酸は酸やアルカリに不安定で，パントテン酸の前駆体でもあるパントラクトンとβ－アラニンに加水分解される．このことから，胃酸によってパントテン酸が加水分解される可能性があるが，パントテン酸欠乏の発生は全く報告されていない．その理由の一つに，腸内細菌によってパントラクトンとβ－アラニンからパントテン酸が再合成され，そのパントテン酸を利用している可能性が挙げられている．さらに，ヒトを含むほ乳動物の大腸に生息する腸内細菌はパントテン酸のde novo生合成経路も有しており，合成された一部を利用していると言われている．また，肉を中心とした食事よりも野菜の多い食事を摂ったときや，ヒトにセルロースを摂取させたときに，糞中のパントテン酸含量が高くなるという報告がある．しかし，糞中のパントテン酸含量が高くなっても，尿中に排泄されるパントテン酸量には明らかな増大は認められていないか，あるいは若干増大している．山方，ヒトにパントテン酸を含まない食事を10週間にわたって投与すると，尿中のパントテン酸排泄量は速やかに検出限界以下に減少したが，実験最終日においても血液中のパントテン酸含量は低下せず，欠乏と思われる症状は認められなかった，という報告がある．この欠乏実験の結果は，腸内細菌によって合成されたパントテン酸の利用が示唆されるが，腸内細菌合成のパントテン酸の体内利用性に関しては未だに不明である．