遺伝資源の発見から品種育成までを網羅したテンサイ黒根病抵抗性の遺伝、育種学的研究

摘要

今日，テンサイには，高糖型，根重型，各種の病害抵 抗性品種など多様な品種群が存在するが，品種改良の歴史はわずか200年程であり，ショ糖生産を目的として作 付けされた歴史は極めて短い.テンサイが帰属される Beta vulgarisには，利用形態が異なるいくつかの栽培品 種群があり，根菜用（テーブルビート），葉菜用（フダン ソゥ），飼料用（フオダ一ビート）などがある.このうち製糖原料用（サトウダイコン）がテンサイであり，飼料 用品種からショ糖を高蓄積するように循環選抜して作出 されたと考えられている（Fischer 1989).今日，人類が 利用している作物のなかでも，とりわけ新しい作物であ る.日本では，明治時代の1870年に東京開墾局勧業試験場（現新宿御苑）に，翌1871年に札幌官園（のちの北海 道農事試験場）に試作されたという記録があり，おそら くこの時期に初めて導入されたと考えられる.1876年に 札幌農学校の教頭として招かれたウイリアム、スミス、 クラーク博士が，北海道の気候，土地，労力などの観点から，テンサイ産業の起業を強く進めたということであ る.それを受けた明治政府は，1880年西紋別村（現伊達 市）に日本最初のテンサイ工場を建て，我が国でもテン サイ糖の生産が始まることになつた（島本2010).かつ ては，東北地方の一部にも2万haほど作付けがあり，西 南暖地では冬作なども試みられたが，相次ぐ病害の発生 や技術不足もあつて採算が合わず，現在は北海道だけに栽培されている.2014年現在，北海道の作付け面積は約 60,000 haであり，言うまでもなく北海道の基幹畑作物と して，特に道東地域の産業を支える重要品目である.