遺伝資源の発見から品種育成までを網羅したテンサイ黒根病抵抗性の遺伝、育種学 的研究

摘要

四方を海で囲まれ、はっきりとした季節の 移ろいを感じられる我が国では、世界の主要 な穀倉地帯と異なる独特の風土の下で農業が 営まれている。現在、農研機構が担っている テンサイの育種研究は、前身の日本てh菜研究所ゃ農林水産省北海道農業試験場から受け継がれた100年以上の歴史があり、諸外国の生産地域で選抜されてきた品種の収集と導入 育種に始まり、それらを道内各地で地域適応 性選抜した派生系統から多くの品種が育成された。1940年代に米国で相次いで見つかつ た単胚性（Savitsky, 1942)と細胞質雄性不稔 (CMS) (Owen, 1945)は、これらの形質を司 る遺伝子の利用に伴い、急速に欧州にも広ま り、1970年頃を境に単胚性CMSを利用した 一代雑種育種法へ完全に転換した。日本もこ の潮流に後れず、独自に一代雑種品種の開発 を行い、我が国の栽培環境に適した遺伝子型 の選抜を続けている。ところで、北海道の栽 培条件が欧米と異なる大きな特徴は、春先の 厳しい低温と夏の高温、多湿である。春先の 低温による生育不良と低収は、ペーパーポッ ト移植栽培法の普及により概ね克服された。 しかし、夏の高温、多湿は、恒常的に褐斑病 や黒根病等の糸状菌に起因した病害の多発を招いて、未だ糖生産を不安定なものにしている。