高校生物における 放射線と突然変異の学習

摘要

放射線を浴びた細胞ではどのようなDNAの傷ができて，その傷はどのように処理されて細胞を突然変異か ら守っているのだろうか？こうした疑問に答える学習は，細胞が本来もっているDNA保全のしくみの理 解に導く。この理解こそが，放射線の健康影響を正しく理解する基礎になる。旧学習指導要領下の高校生物の教科 書「生物II」で見ると，放射線はビー ドルとテータムによるアカバンカビの 栄養要求性突然変異の誘発実験あるレゝ は進化のしくみの項目の下で，"突然変 異を誘発する作用を有するもの"，す なわち"変異原"として断片的に軽く 扱われているにすぎない。新学習指導 要領に基づく 「生物」でも，この状況 は大きく変わらないと思われる。それでも，昨年3月の福島第一原発事故以 後の放射線被曝に対する懸念の広がり と関心の高まりを考えると，高校生物 の遺伝, DNA分野において"放射線の変異原性"(用語解説「変異原性とDNA損傷性」を参照）と"突然変異から細胞を守 るしくみ"をしつかり教えるべきであろう。目的は，放射線の健康影響を正 しく理解するために必要な基礎知識と 視点の習得である。