多能性幹細胞という生き物を 解剖する

摘要

2006年に京都大学の山中博士が誘導型多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cells, iPS細胞）の樹立を報告1) してから，はや7年が経った。iPS細胞という言葉はもは や何の注釈もなしに新聞紙上を賑わし，それは2012年の ノーベル賞受賞で最高潮に達した。そして，これでiPS細 胞研究の第一段階ともいうべき基礎的研究は一段落し，次 には医療応用の実現に期待が寄せられている。しかし， iPS細胞がなぜできたのかは，今もって明快な説明は不可 能である。というのも，この問題は多くの点で，生命科学 の根本的な問題を含んでおり，誰もが「わかる」という実 感を抱ける説明を与えうるほどには，生物学自身がまだ発 展していないといえる。