高校「生物」教科書における「遺伝」分野の現状と問題点

摘要

今世紀はバイオサイエンスの時代、あるいはゲノム時代だといわれる。 学問の成果がその世界にとどまらず、一般市民の健康や食生活に直接に影響する社会が到来する。 しかし遺憾なことに人々の知識や理解力はけっして十分とはいえず、このため遺伝子組換えや遺伝疾患といった言葉に拒否感や偏見を覚えたり、暗いイメージを抱いたりすることも多い。 遺伝の基礎知識が市民の一般教養の一つとして定着させるための原点は、やはり学校教育、とりわけ大多数の国民が経験する高等学校の「生物」教科であろう。 しかし現在の教科書に盛り込まれた遺伝分野は、近年の生命科学の発展を反映したものとはとてもいえない深刻な状況にある。 ここでは、①選択履修制の問題、②学習内容の軽減化、③社会のこ－ズに応えない遺伝教育、などの面から幾つかの問題点を挙げてみたい。