高校「生物」における問題点（2）組換えDNA実験の導入をめぐって①ー研究者の立場からー

摘要

新しい学習指導要領では，遺伝の法則が中学校理科から高校の「生物I」へ先送りされ，DNAは，実質的には，「生物II」で一部の高校生が「生物I」のあとから習うだけとなっている．その－方で，文部科学省の組換えDNA実験指針が改定され，中学校や高校などでは「教育目的組換えDNA実験」が解禁された．スーパーサイエンスハイスクールの話題も重なる．巷では，遺伝子組換え食品，遺伝子診断，DNA鑑定，遺伝子治療，クローン生物，そして企業のDNA（？ ）などと新しい言葉が並ぶ．DNAをどう教えたらよいのか？ 　 高校生物の内容は，現代科学の認識からも，現代社会の要請からもかけ離れてしまった．その典型は“遺伝”である．DNAを，メンデルの法則を習得したそのうしろに置く構図に無理がある．親子が似る個体レベルの遺伝と，細胞と遺伝子の制御を中心とする細胞レベルの遺伝とを，概念的に整理するべきである．生物学における各論の重要性は認めつつ，分子，細胞，DNA，あるいは概念としての進化を基礎においた新しい生物学が高校には必要である．