ミツバチ蜂群崩壊症候群に関連した遺伝子転写量の変化

摘要

2006年秋、アメリカ養蜂産業は原因不明のミツバチ大量失踪による多大な被害を経験した。この現象はミツパテ蜂群崩壊症候群Colony Collapse Disorder（以下CCD）と名づけられ、世界中の注目を集めた。CCDの特徴としては、巣箱内や巣箱付近にミツパテの死骸が見当たらないこと、巣内には桶や幼虫、蜂蜜、花粉などが豊富に残されていること、そして、巣内には女王蜂を含めごく少数の働き蜂しか残っていない点があげられる。CCDが全米のミツパテコロニーに与えた損失は大きく、2006年秋～2007年春にかけて約23％、2007年秋～2008年春にかけて約36％のミツパテコロニーの減少を招いた。その後、同様なミツバチの大量失踪がヨーロッパをはじめとした世界各国で報告され、多くの研究者がCCD発生の原因究明に取り組んだ結果、ある種のウイルスとCCDとの関連性を報告した論文がScience誌に掲載された（Cox－Foster et al，2007）。この論文では、メタゲノム解析によって、イスラエル急性麻痺病ウイルス、IsraeliAcuteParalysis Virus（IAPV）の感染とCCD発生との関連が示唆された。しかし、その後、IAPVは2006年以前にもアメリカに存在していたことがわかり（Chen and Evans 2007）、IAPVがCCDの直接の発生原因でないことが判明した。以来、病原体や殺虫剤など他の環境ストレスとの関与が指摘されてきたが、発生原因はいまだ特定されていない。