鶏コクシジウムの薬剤耐性に関する生化学的，遺伝学的ならびに実際面の展望（1）

摘要

抗コクシジウム剤は，鶏を主とする家禽のコクシジウム症を予防する目的で，広く世界中で使用されている。一方，薬剤の汎用が耐性という現象を招来していることば間違いない事実である。 これまでに市場に導入された薬剤すべてに対し，すでに耐性現象が認められているため，もし今後も化学療法が，コクシジウム症対策の主な手段として存続していくとすれば，常に新しい抗コクシジウム剤を探す研究努力を続けて行くことが，重要になる。 アイメリア原虫が営む生化学的な物質代謝の経路と，宿主の代謝経路との相違がとこにあるかという認識が，原虫の発育を阻止する目標を捕らえて新薬を開発していくうえで，大いに役立つと思われる。 薬剤耐性の生化学的なメカニズムを理解するためには，薬剤の作用機序に関する研究が必要になる。 また薬剤耐性の遺伝的素因，安定性およひ原虫のポピュレーション内に耐性が拡散する要因などの情報も必要になる。原虫の薬剤耐性獲得を阻止する方法が見当たらない今日，現存の抗コクシジジウム剤の効果をできるだけ長く保持するために，今後より多くの注意が向けられるべきであろう。 コクシジウム症に限らず，防疫を目的に薬品が頻繁に利用されてきた分野では，いずれも薬剤耐性という問題が持ち上がっている。 ニワトリの主な病気の一つであり，アイメリア属の原虫により引き起こされるコクシジウム症についても，このことば全く例外ではない。ニワトリや七面鳥などの飼料にはほぼすべて，抗コクシジジウム剤が混合されて利用されている。 この事実からしても，コクシジウム症に対する化学療法の規模がいかに大きいかが判るように，それに要する薬品代は毎年何百万ドルにも達するとされている。 飼料添加により投薬する方法は便利な手法であり，労力の軽減，経済効果の向上を伴い，養鶏産業では，とくに大羽数のコマーシャルプロイテーの集約的大規模飼育を可能にする重要な要素となっている。 肉を生産する目的のプロイラー鶏では，薬剤が生涯をとおして飼料添加により与えられるため，薬剤の感作から逃れられる原虫はばとんとない。 薬剤の影響を受けながら，原虫がごく少数でも生き延びるような機会を得るならば，耐性獲得に発展する可能性が生じる。 このようにして薬剤耐性の発現がもたらされてきた。 アイメリアの場合，薬剤耐性については以下のような定義が当を得たものといえるだろう。 「コクシジウムの薬剤耐性株とは，アイメリア属のある種の原虫を，本来死滅させるか，その発育，分裂増殖を阻止する薬剤濃度の存在下においても，発育，分裂増殖，生存可能な株」薬剤への暴露が継続する間に，その薬剤に対する感受性が遺伝的に減少する結果獲得された耐性と，ある種または株のアイメリア属原虫が一定の薬剤に対しては本質的に感受性が低い場合との違いについては，二つに分けて－捉える必要かある。 たとえば，サルファ剤は，E．tenellaに対して本来それほど有効性が高くなく，一方アンプロリウムは小腸型コクシジウム（E．acervulinaおよびE．maximaなと）にはあまり有効ではない，なとの事柄があげられる。コクシジウムの種によって，いろいろなイオノフォア抗生物質の効き方が微妙に異なるが，このような有効性の違いについてはすでに解説されている。 そのような違いは本来，種によって反応性が異なるという性質に基づくものか，物質代謝の相違を表しているか，またはコクシジウムの種類によって異なる寄生部位を有するが，腸管の異なる部位への薬剤の分布度の違いによる，などのことが考えられている。 獲得耐性は失われた感受性がコクシジウムの集団（ポピュレーション）の中にどの程度広まったかによって，部分的な耐性か，完全な耐性かに分けられる。耐性の程度も，薬剤の濃度に依存して異なり，ある一定濃度以下に対しては十分な抵抗性を示して－も，それ以上の薬剤濃度に暴露されれば，部分的または完全な抑制効果を被るものもある。 攻偿伐弗Ε鄤垽四托预k現することを最初に記述したのは，Horton－Smith（1951）であった。 スルファキノキサリンとニトロフラゾンに対する抵抗性については1950年代に報告されたが，それが野外で重大問題へと発展するものとは考えられて小なかった。 今日の事態は最早そのように悠長なことではなくなっている。 一連の安全かつ有効な薬剤が開発され市販されてきたが，それらのすべてに対して耐性が報告されている（表1）。 アイメリア属原虫の薬剤耐性については，これまでにいくつかの総説が公にされている。 本稿では，薬剤耐性につき，さらに生化学的，遺伝学的展望とその対策について検討してみることとする。